映画「つぐみTUGUMI」のサイト

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<松竹映画「つぐみTUGUM」を語るサイトです。>

■松竹映画「つぐみTUGUM」
■松竹映画
「つぐみTUGUM

tugumi tugumi
《あらすじ》
■大学生の白河まりあ(中嶋朋子)は、再婚した母親(高橋節子)、出版社勤務の父親(あがた森魚)といまは親子3人で東京で暮している。この春までは高校生で、母親は姉の嫁した伊豆西海岸松崎の旅館に住み込みで働いていた。
夏休みになって、まりあは沼津からの船で松崎に帰郷する。松崎の港に迎えに出ていたのは従姉妹の山本つぐみ(牧瀬里穂)と姉の陽子(白島靖代)だった。つぐみは短命宣言をされていたほど生まれつき体が弱く、そのことで、両親の正・政子(安田伸・渡辺美佐子)を恨みに思いながら、わがままいっぱいに育った18歳。しかし、つぐみはいつも死を意識している多感な少女でもあった。次々に男と付き合ったりして家人を困らせていた。実家は松崎の海岸で梶寅という旅館を営んでいた。
次々に何人もの男とつきあったりする自由奔放なつぐみは、それでも周囲から悪評の立つこともない愛すべき少女だった。地元の子どもたちにも人気があった。
高校を卒業したつぐみは、時間を持て余しながら、週2回地元の病院(医者は下條正巳)に通う日々を送っている。
まりあの帰郷したある夕方、つぐみとまりあは海辺で、ついこの間までつぐみがつきあっていた、藤内(吹越満)をリーダーとする不良グループに絡まれているところを見知らぬ青年に救われる。
夏祭りの夜、つぐみはその青年を見かける。ある日、青年は兄(財津和夫)が宿泊している梶寅旅館を訪ねてくる。そこでつぐみは彼が高橋恭一(真田広之)という名前で、町の長八美術館に勤め始めたことを知る。彼に助けられたこともあり、つぐみは恭一にだんだん思いを募らせて、惹かれて行く。
ある日、熱を出したつぐみの見舞いに梶寅旅館にまりあの誘いで恭一がやって来るが、つぐみは恥ずかしさで、姿を隠す。そんなつぐみと恭一のつきあいが始まる。
恋仲になったつぐみと恭一が防波堤で会っている時、不良グループがやって来て、恭一に仕返しをする。翌日には恭一のバイクが細工をされて、大怪我をする。つぐみの愛犬ピンチも殺されてしまう。それを知ったつぐみは不良達への復讐のため、誰にも喋らずにディーゼル工場跡に巨大な落とし穴を掘り続け、無理がたたり倒れてしまう。つぐみは危篤状態に陥る。
夏も終わり、つぐみの事を心配しながらも東京に戻ったまりあは、回復したつぐみからの電話で無事を知る、というひと夏の物語。

《「つぐみTUGUMI」詳細場面集》
映画の場面を時間で追ってみました。■の前の数字はカウンター。最初の映像が出たところを0'00スタートで計測。数秒の誤差はあります。<>の中は引用者の感想。

tugumi
0'00■富士山を背景に「松竹映画」。 1 松竹富士株式会社、FM東京、山田洋行ライトヴィジョン株式会社提携作品。 2 FM東京開局20周年記念。 3 製作、奥山和由、後藤亘、鍋島壽夫。
0'30■冷凍のマグロ。美しい青の光景。
勝鬨橋。早朝の東京築地魚河岸、マグロを扱う市場の人たち。
まりあの語り
「海はいい時も悪い時も、暑くても澄んでいても、真冬の星空の時も、新年を迎えて神社に向う時も、いつも同じようにそこにあり。あたしが小さかろうが大きくなろうが--」
風景が東京の街に変わり、
「隣のおばあちゃんが死のうが、医者の家に赤ん坊が生まれようが、初めてのデートだろうが、失恋しようが--」
学生の登校風景、
「とにかくいつもしんと広く町をふちどり、きちんと満ちたり引いたりしていた」
街の風景、
「そして海は見ている者が、ことさら感情移入をしなくても、きちんと何かを教えてくれるように思えた」

2'50■まりあが母親と待ち合わせ。
まりあの語り
「静かな海辺の故郷の街を離れて私は東京の大学に進学した」
2人で映画館へ。和服姿の母親。
スクランブル交差点、
まりあの語り
「私は白河まりあ、聖母みたいな名前だ。しかし心は別に聖母でも何でもない。どちらかと言えば短気の生身の人間だ」

映画館内。上映作品は高峰秀子版「二十四の瞳」。
映画の画面。
浪花千栄子(高松のうどん屋の女将)「ご挨拶しなんせ、先生お帰りじゃが」 高峰秀子(大石先生)「どうもお邪魔いたしました」 浪花千栄子「お構いもしませんで」 高峰秀子「松っちゃん(教え子)、元気でね。手紙ちょうだい、先生も書くわ」
黙ったままの松っちゃん「…」。
高峰秀子「さようなら」
映画館を出る二人。
映画館の建物の壁に「心に残る日本映画名作特集。二十四の瞳、帰郷、本日休診、安城家の舞踏会<ゴールデンシアター銀座文化>ニューシネマパラダイス」の看板。
母「いい映画でしょ」
まりあ「高峰秀子、よかったね」
母「あ、海の匂い」
4'37■空を見上げるまりあ。
東京の街。
まりあの語り
「時折、眠れない程海が恋しい。どうしようもない。よく来るこの街では風向きによって、ふいに潮の香りがすることがある。その瞬間、私は叫び出しそうになる。全身がその香りに急に吸い込まれて--」
画面、橋の上から川面へ。
「身動きがとれないほど切なくなる。そんな時、私は手に抱えた山野楽器やプランタンの袋をかなぐり捨てて走って行き、潮のこびりついた、あの汚い堤防に立って、心ゆくまで海の匂いを嗅ぎたくなる」
伊豆西海岸の海へ、
「こんなに強い衝動もいつかは薄れていくに違いないことのつらさ。これが郷愁というものだろうか…」
5'38■松崎へ向う船。
6'12■画面が那賀川河口に入って行く。
6'26■那賀川河口で、正面に旅館梶寅が見えてくる。岸壁には舟と釣り人。
6'57■旅館左手の部屋へ画面がパーン。
7'04■旅館梶寅の一室であるつぐみの部屋。雑誌JIMMY、カセットテープなども見える。
7'38■目覚めるつぐみ。
8'02■カーテンを開けるつぐみ。
窓の外を通過する漁船。

(映画タイトル「つぐみ-TUGUMI」)
8'33■旅館内、スリッパが並ぶ玄関。掃除をする人たち。
8'42■布団部屋で繕い物をする母。鉢植えのある出窓。その影。
(クレジット「原作、吉本ばなな・中央公論社刊」)
9'04■帳場で帳簿の作業をしている父。物干し台。
(クレジット「プロデューサー、久保修・吉田多喜男」)
9'58■部屋を出ていくつぐみ。
つぐみ「僕も今、それと同じことを考えているところだよ。科(しな)作り君」 出かけるつぐみを見る母親。
つぐみ「しかし正確には少し違っている。汚染だよ、科作り君。汚染が始まっているんだ」
旅館玄関の時計の示す時刻は10時55分。
つぐみ「病院行ってくる」
玄関先で、盆栽を手にした老夫婦。 老夫人「つぐみちゃん」と呼びかける。 つぐみ、ふざけて付けていた髭を取り、「はい」 と返事。
老人「どう近頃は?」
丁寧に挨拶するつぐみ「あんまり変わりません」
老人「そう、大事にね」。老人の手には盆栽、
ハンチング帽で歩き始めるつぐみ。
(クレジット「音楽・板倉文」)
たばこ屋の前を過ぎる。
(クレジット「撮影・川上皓市、照明・磯崎英範」)
10'47■消防団の小屋・第一小隊の消防自動車置場。小屋の前に杖をついたひなたぼっこの老人がいる。
(クレジット「美術・正田俊一郎+録音・宮本久幸」)
戻って来た自転車の陽子が、つぐみに声を掛ける「行ってらっしゃい」
11'09■松並木の横を過ぎる。
つぐみ「わかるだろう、科作り君」。 「わかれよ科作り、しなつくってんじゃねえよバカヤロー」
(クレジット「助監督・月野木隆、制作統括・小宮慎司」)
小学校の横を過ぎる。
つぐみ「自由とは何だ。そんなもののために戦ってどうなるというんだ科作り君」
「それは違うよ。君が間違っている。この星は今それどころじゃないんだ」
(クレジット「牧瀬里穂」)
11'35■松崎の地図の前に子どもが坐っている。 橋の方に向うつぐみ。 後ろをついてくる子ども。
(クレジット「中嶋朋子」)
子どもから「つぐみ、ゴミ!」と言われながら、蠅叩きで尻を叩かれるつぐみ。二人の前には幼稚園に向う母子。
11'48■仕返しに子どもの尻を蹴飛ばすつぐみ。子どもはぶっ飛ぶ。
(クレジット「白島靖代」)
12'00■ときわ大橋の上、なおも子どもがついてくる。
(クレジット「安田伸+渡辺美佐子」)
12'20■中江病院へ。
つぐみ「その問題は、ずっと以前に解決されている」
(クレジット「真田広之」)
12'34■中江病院診察室。診察を受けるつぐみ。医者には素直なつぐみ。
医者「よく眠れる?心も静かに。いいね」
つぐみ「はい」
医者「それじゃ、また3日分の薬を上げるから」「外で少し待っていなさい」
つぐみ、壁の絵を見ながら「額、変えたんですね」
医者「ああ」
14'10■待合室で薬を待つつぐみ。
看護師「松原さん」と呼ぶ。老婦人が診察室へ。
老人が椅子に腰掛けて眠っている。
薬の用意ができて、看護師「つぐみちゃん〜」
(クレジット「脚本・監督 市川準」)
(*以上は松崎でのつぐみの現在の生活の情況。ここからは、まりあの船が松崎港岸壁に到着するまでの間に展開する回想。つぐみが育って来たこれまでの話)

15'10■東京のまりあの家。
父親「ただいま」
まりあ「お帰りなさい」
父親「今夜は天ぷらか?」「あ、そうだ今日はね、お土産があるんだ」「まりあ。煎餅」
まりあ「え?」
父親「1枚ずつだけどな、ほら」
まりあ「どうしたの、それ?」 父親「お客から貰って食ったらあんまり美味いんで君たちの分も貰ってきたんだ。東京は煎餅だけはうまいからな」
15'41■電話が鳴る。コードレスホンで電話を受けるまりあ。
まりあ「ハイ、白河です」「うわぁ、元気?」「なつかしいなぁ」
15'55■旅館梶寅の居間。母親と姉。電話をしているつぐみ。
つぐみ「相変わらず、バカそうだな。お前」「ちゃんと勉強してんの」「おじさんは浮気してないか」「2度あることは3度あるつっうぞ」
陽子、つぐみから電話を取って「まりあちゃん。陽子です。元気?」
まりあ「うん、元気、元気。ああ、手紙ついた?」
陽子「うん、私もまた書くね。で、さあ、もうすぐ大学お休みでしょ?バイトとかなかったら…」
つぐみ、受話器を奪い取って「お前、どうせ夏休み暇なんだろ?遊びに来いよ。離れもあのまんまだし。美味い刺身食わせるって、うちのばばあが言ってるぜ…」「そうか、来るか…」「来いよな」
17'00■まりあのモノローグ。
伊豆の山。「つぐみは生まれた時から、体がむちゃくちゃ弱くて、あちこちの機能が崩れていた--」
伊豆の海。
診察を受けるこどもの頃のつぐみ。
「医者は短命宣言をしたし、家族も覚悟した。そこでまわり中が彼女をちやほやと甘やかし--」
病院から戻る親子姿。
「母親は労を惜しまず評判の病院に付き添い、少しでもつぐみの寿命を延ばそうと力を尽くした」
18'00■帰一寺の境内で遊ぶつぐみ。
「そして、そろそろ歩くようになると成長した結果--」
松の木にすがりつくつぐみ。
「彼女は思い切り開き直った性格になってしまった」
18'12■旅館の部屋で皆が生け花をしている。
つぐみ「あたしがくたばった時の、お前たちの化けの皮がはげるのを見てえもんだ」
母「もういっぺん言ってごらん」
つぐみの頬をつねり、再度「もういっぺん言ってごらん」
突然、障子に拳で穴を開けるつぐみ。
18'40■桜の下、高校へ登校するつぐみ、追いつくまりあ。
「つぐみは、意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれてずる賢い」
19'20■まりあの家。
まりあ「この人が好きなんだ」
陽子「好きなの、カッコいい」
つぐみ「どら見せてみろ。げぇ、何だこいつ。うー、吐く吐く、げぇー、げぇ−」
19'44■つぐみの頬を殴るまりあ。
20'02■まりあの勉強机の前に洗濯バサミで留められた「ぶす」の文字<かなり巧い几帳面な文字。物語の終わりのメモの字と対照的>微笑むまりあ。
20'31■部屋であやとりをしているつぐみ。
「もう少しの辛抱だよ、ジャン!」
旅館の中で傍若無人に暴れ回るつぐみ。
つぐみ「おー、ジャン。おー、ジャン!」
「もう少しの辛抱だよ、ジャン、ジャン!」
「もう少しの辛抱だよ、若林!<これは映画スタッフの名前>」
「もう少しの辛抱だよ、ジャン!」<まるで「奇跡の人」の初期ヘレンケラーのよう>
21'00■悪態をつくつぐみ。
陽子に「つられて笑ってんじゃねえよ、バーカ」
母親に「おめえの考えてることはすぐ顔に出るんだよ」
父親に「こんなクソみてえな旅館潰しちめえよ」
21'41■寝巻姿の父親「どこをほっつき歩いていたんだ、今頃まで」「言ってみろ」「言えないような所を歩き回っていたのか」
玄関先で、派手な服装のつぐみ「うるせんだよ、バーカ」
父親「何だ、その口のきき方は」
心配そうに見ている家族。
「2、3発ぶっとばされなきゃ、わからねえんだ、こいつは」
つぐみ「ぶっとばしてみろよ」
22'20■玄関。カーテンを引きずり落としながら、
つぐみ「そいで…」
「そいで、あたしが今夜ぽっくりいっちまってみろ」
「お前ら--…」 「後味悪いぞ」。

まりあの語り「人の一番嫌がることを、絶妙のタイミングと的確な描写で、ずけずけ言う時の勝ち誇ったさまは、まるで悪魔のようだった」
23'00■梶寅旅館から隣接する瀬崎稲荷を経て、離れの建物へパーン。
23'37■まりあの語り
「私と母は、つぐみの家である旅館の離れに二人で住んでいた」
旅館と離れの間の道路。生徒が登校している。
23'50■母親「じゃ、行ってくるわね」
まりあ「いってらっしゃい」
向かいの旅館に勤めに行く母。
「ここは母の姉である政子おばさんの嫁ぎ先で、母は旅館の仕事の手伝いをして暮していた」
物干し台で洗濯物を干すまりあの母親。
24'07■夜、離れ。東京からまりあの父親が来ている。
父親「このお姉さんの詩、すごく人気あるんだ。読んでみるといいよ」。
まりあの語り
「私の父親は東京で長く別居していた妻との離婚を成立させて、私の母と正式に結婚するために苦労していた」
まりあ「ねえ、最近面白い本作った?」
語りの続き
「あっちこっち行ったり来たりして、大変そうに見えたが本人同士は、晴れて家族三人、東京で暮せる日を夢見て、結構楽しそうだった」<出版社に勤めている?それにしても下唇に飯粒が付いているぞ>
24'57■まりあの語り「だから私は見かけは多少複雑でも.愛し合う夫婦の平和な一人娘として育ったのだ」
まりあ一家が3人で夜、漁港付近を歩く。母娘は浴衣姿。
港の波面に揺らぐ漁船の漁火。
(*ここで松崎に向かう船上のまりあ。デッキに上る。沼津を出発したばかりの場所。まりあの語り「中学生の頃、私とつぐみと--」)
25'35■旅館の居間で、テレビドラマの最終回を見ている。
語りの続き
「つぐみのお姉さんの陽子ちゃんは、あるテレビ番組に熱病のように夢中になっていた。それは主人公が実の妹を探し求めて冒険をする話で、ある晩、その番組の最後の回が終わった」 <原作によれば、番組はNHK「少年ドラマシリーズ」の「少年オルフェ」全4回、1972年9月放送>
陽子「終わっちゃったね」
まりあ「(呆然と)うん…」
つぐみ「……」
26'18■その夜、眠れないまりあ。
外で同じ気分の陽子がまりあを見つける。
陽子「まりあちゃん」
26'58■二人で海の方へ歩く。青い光の下、浜丁橋の上で座り込んでいるつぐみを発見。
陽子「実の妹に巡り遇っちゃった<ドラマのストーリーから>」
27'27■上弦の月が煌煌と照らす下、無言で海岸を歩くつぐみ、陽子、まりあ。 <原作では、三人で山の向こうまで行った>
28'34■無言の三人。つぐみが骨のような軽石を拾い上げる。
つぐみ「ここ、あの世みたい」<こんな軽石は海岸に頻繁に流れ着くものだ>
29'08■町の中を制服で歩く高校生のつぐみ。
29'15■波打ち際を男と歩く私服のつぐみ。
29'22■下田の町中でオープンカーの男たちに声をかけられるつぐみ。
まりあの語り
「中学の頃からつぐみは男と寄り添って浜を散歩していた」
旅館の部屋に戻りベッドに仰向けになるつぐみ。
語りの続き
「相手は冗談みたいにころころ変わり、狭い町では--」
29'38■夜遊びのつぐみ。
語り「悪い噂が立ちそうなものだったが、人々は皆、つぐみの優しさや美しさが--」
ベッドに眠るつぐみを見ている母親。
語り「否応なく人を魅きつけてしまうのだと信じていた」
パチンコ屋の前で泣きじゃくるつぐみ。
30'02■イメージ映像=海、飛ぶ鳥。
語り「父が前妻と正式に離婚して、私たち母娘を東京へ呼んだのは今年の春先のことだった」
イメージ映像=草畑。
30'30■ケーキ屋のショーウィンドウ。
語り「私はどちらにしても、東京の大学を受験していたので--」
ケーキ屋のまりあと陽子。
語り「父の連絡と合格発表の時期が重なって、私も母も電話のベルに非常に敏感になっていた。そういう時に限ってつぐみはわざと--」
電話をかけるつぐみ「何でもないけど元気?」「サクラチル」
まりあの語り「とか、単に気に触るだけの電話を、日に何度も掛けて来た」
ケーキ屋の店内。
店長「ケーキ、随分売れ残っちゃったな。君たちの好きなショコラマッセも随分残っちゃったね」
まりあ「本当ですね」
飛び込んで来た客「まだいいですか」
まりあ「いらっしゃいませ」
バイトを終えて、店の裏の通路から自転車で帰るまりあと陽子。
語り「しかし、今回ばかりは、つぐみのいたずらも、明るく受け流すことができた。私も母も、ついに東京に移る…。うきうきと明るい予感でいっぱいだった。それはつまり雪解けだった」
31'41■ときわ通りを自転車で戻るまりあと陽子。
   陽子「店長、ケーキ奮発してくれたね」
   まりあ「そうだね、余ってもくれない時あるし」
   陽子「最後だもんね、まりあ。帰ったらみんなで食べようね」
32'15■那賀川の中の白い花。
   陽子「川の中に花がいっぱい」
   まりあ「ほんとだ…。きれいね」
32'43■家へ戻ったまりあと陽子。
まりあ「あ、そうだ。録音頼まれてたレコード、陽子ちゃんにあげる。今、持って来ておこうか」
陽子「悪いわ。2枚組みでしょ、あれ。テープに取ってくれるだけでいいのよ」
まりあ「いいの。どうせ、置いてっちゃうつもりだったから。餞別代わりに。あっ、こっちから餞別って言わないんだっけ」
別れの悲しみでうつむいている陽子。
みつめるまりあ。
33'30■まりあの語り「春が近づき、日ごとに暖かくなり」
瀬崎稲荷前でまりあを待つつぐみ。
語り「いざ、そこを離れると思うと、何でもない見慣れた日常の光景がにじむような明るさでくっきりと胸にせまってきた」
33'51■引っ越し作業をするまりあ。瀬崎稲荷前でつぐみが、掃除をしている旅館の従業員(母親かも?)と見詰め合う。
つぐみ「何だよ」
そして、無言のまま、わけもなく足をあげる<松崎の盆踊りか?>を始め、お互い何気なく終える。
34'41■近所の人に挨拶するまりあの母。
「いろいろお世話になりました」
近所の人「東京でのお住まいは?」。
まりあがジャンパーを着て部屋から外に出て行く。
35'16■まりあ、つぐみが無言で道を歩いて行く。
35'36■海辺、犬のピンチが波打ち際で遊ぶ。
まりあ「私がいなくなったら、ピンチの散歩、頼むね」
36'09■つぐみとまりあが、夕暮れの海を眺めながら坐っている。
まりあ「手を出して」。
首からネックレスをはずし、俯いて手だけを差し出しているつぐみに渡す。
つぐみ、横になり、肘をつき「欲しかねえよ、こんなもの」
まりあ「いいから持ってて」
36'33■まりあ「私、自分が今さら海のないところで暮せるなんて信じられないよ」と、横になる。
つぐみ「…」
37'26■船上のまりあ。背後には富士山が見える。
まりあの語り「どうしてだろう。船が港に近づいて行く時、昔から、いつでも、ほんの少しよそ者の気分になった。なぜか、自分がよそからやってきて--」
船が松崎港に近づく。
語り「またいつか、この港から、去るに違いないという予感がする」
「きっとどうせ人はどこにいても--」
船が岸壁に近づく。
語り「いくらかはたった一人のよそ者だということが--」
迎えに来ている陽子。
語り「海からかすむ港を見る時に、はっきりと分かるからなんだろう」
*(ここでまりあの船が松崎へ到着。船名=こばるとあろー2)
38'00■松崎港。迎えに出ているつぐみと陽子。
船から降りて来たあまりあ。
陽子「ひさしぶり」
まりあ「うん」
サングラスを下げてまりあを見るつぐみ。
つぐみ「遅いぞ」
3人が歩いて行く。岸壁の釣り人に目をやり、
まりあ「あぁ、懐かしいなぁ…。あ、ちょっと。あのおじいさん、いまだに釣りしてんの?」
陽子「毎日、みたいなの」
39'01■つぐみを蠅たたきで構う子ども。子どもに反撃するつぐみ。<つぐみらしくない行動>
39'07■旅館梶寅へ到着。
つぐみ「おーい、タダ飯食いのブスが着いたぞ」
母親「こら、つぐみ」
まりあへ「お帰んなさい」
まりあ「しばらくお世話になります。これ、母から」
母親「どうも、あの人も来ればよかったのにね」
まりあ「夏の海見たら泣いちゃうから嫌だって」
39'32■かつてまりあの住んでいた離れの部屋。
まりあ「何も変わんないね」
陽子「そうなの」
坐って、まりあ「落ち着くなぁ」
40'07■横になっているつぐみの首に「欲しかねえよ、こんなもの」のネックレスをまりあが見る。<まりあは嬉しい>
帽子を顔に載せたまま動かないつぐみに、
まりあ「つぐみ。大丈夫?」
40'28■夕刻、松並木の道、陽子、自転車で菓子店へバイトへ。
まりあ「新しいケーキとか増えた?」
陽子「うん、今、ティラミス頑張って作ってる」
まりあ「へぇ、そうなんだ。店長によろしくね」
陽子「うん。じゃ、行ってくるね」
まりあ「行ってらっしゃい」
まりあはそのまま海辺へ。
41'02■<状況からしてまりあが到着した当日でなさそう>ピンチを連れて、海岸に出るつぐみとまりあ。
海岸に不良たちが焚き火をしている。
リーダーの青年も二人を見る。
ビールを飲んでいる不良ども。
ピンチが波打ち際で遊ぶ。
不良どもとは離れた所に坐って、
つぐみ「例えばさぁ、地球に飢饉が来るとするだろう」
まりあ「飢饉?」
42'05■手に釣り道具を持った青年が波打際のピンチと遊ぶ。
つぐみ「それで食う物が本当になくなったら、あたしは平気でピンチを殺して、食えるような奴になりたい。後悔も良心の呵責もなく、平然と、ピンチは美味かったと、笑えるような奴になりたい」
まりあ「変な奴ぅ〜」<この辺、常識人のまりあは、つぐみを今ひとつ理解できていない>
43'04■二人の不良が近づいて来て、ヨーヨーをしながらつぐみとまりあに絡む。
不良のひとり「藤内が寂しがってるぜ」さらに「つぐみ…」
43'26■青年がピンチを携えて「君たちの犬だよね」と、間に割って入り、二人を救う。
逃げるつぐみとまりあ。青年が不良らともみ合う。道からそれを見ている二人。
44'00■夏祭りの夜、離れで浴衣に着替えるつぐみ。
つぐみ「地獄にまします我らの悪魔。御名が崇められますように。御国が来ますように。御心が地獄に行なわれるとおり、地にも行なわれますように」 <もちろん神が悪魔に、天国が地獄に言い換えられている>
44'26■灯籠流し。
44'40■通りを中江医師が看護師と歩いて来る。<では看護師のねえちゃんは医師の娘ということか?>
中江医師「こんばんわ」
政子「まぁ、お揃いで。いつも、つぐみがお世話になっています」 看護師「あら、つぐみちゃんたち」
44'53■つぐみ、まりあ、陽子の浴衣の後ろ姿<よく育ったね、と感慨深げな母>
45'18■川面の燈籠。ときわ大橋の上から灯籠流しを見る3人。
45'45■流れる灯籠を見ているつぐみ。
46'16■つぐみが何気なく振り返る。ヨーヨー風船を手に一人で歩いている青年。
46'27■青年を見るつぐみ。
46'45■川面の花火。
47'04■朝、旅館の風呂に入浴している宿泊客。<青年の兄であることが後で分かる>
47'18■つぐみの友人が遊びに来ている。まりあ、つぐみ、陽子はゲーム。
つぐみ「あ、そうか」「チェ、やめた、やめた」
まりあ「今度、陽子ちゃんと」
つぐみが這って机へ。途中、爪を切っている友人。
つぐみ「爪切りに来たのか、お前は」
48'03■旅館の前を通る葬列。それを見るつぐみ。
48'24■葬列に続き、バイクを押して旅館を訪ねて来る青年(岸壁に子どもがいる)それを見て、出かけるつぐみ。
49'04■玄関で青年を迎えるつぐみ。
青年「ごめんください」
つぐみ「はい」頬のあばたが目立つつぐみ。
とまどいながら、青年「君は?」
つぐみ「あの時は、どうも」 青年「ごあ、いや…。君、この旅館の人?…こちらに、高橋という人が泊まっていると思うんですが」
つぐみ「少々、お待ち下さい」
帳場に行き、父親に「高橋さんて人、泊まってる?」
父親「きのうの晩、遅く着いた方だ…。お客さん?」
50'05■そうしている内に、青年の兄が階段の上から覗き下ろし「よぉ」
青年「やぁ」
青年の兄「上がれば…」
青年、上がるのを見送る父親。つぐみは靴を履き、出て行く。
50'56■中江病院へ行くつぐみ(待っていた子どもと戯れながら)。
51'10■病院の診察台に横になっているつぐみ。
看護師「あれ、いいでしょう」
つぐみ「うん、あれいい」
看護師「いいわよね、あれ」と念を押す。
つぐみ「…ねぇ、あたしいつまで生きてるんだっけ」
51'58■旅館の前にまだバイクがあるのを見て、腕を大きく回しながら、機嫌良く旅館に戻るつぐみ。
52'08■寝床で物思いにふけるつぐみ。石の骨を見る。
53'06■夜、眠っているまりあを起こしに行く梶寅の半纏のつぐみ。
つぐみ「おい。起きろ」
びっくりして、まりあ「なによ」
つぐみ「眠れねえんだ」
53'22■物干し台でまりあに背中を掻いてもらっているつぐみ。
つぐみ「あれは、俺じゃねぇ。中西のことはな」
「もっと右、もうちょっと下」
「あれは俺じゃねえよ」
「もうちょっと、左」
「あぁ、いい。そこそこそこそこ」
「あいつが、あんな酷えことをするなんて信じられねえよ。中西は、本当にいい奴だった」
まりあ「もう、いいんでしょ」
つぐみ「いや、ありがとう」
まりあ「全く、酷えことしやがるなぁ。信じられねえよ」
54'18■客室で話をしながら酒を呑んでいる兄弟(机上にビールとサントリーリザーブ。アイスペールに他に、口が切られた清酒の一升瓶が4本立っている)
   青年の兄「まぁ大丈夫だ…。長生きするよ、あれは」
   青年「…きのう、葉書出した」
   青年の兄「…そうか」
55'04■青年の兄が客室の窓のカーテンを開ける。
青年の兄「気持ちいいなぁ」
青年「のどかな町だよね」
青年の兄「いい香りがするな。この町は」
つぐみ「あれは、俺じゃねぇ。中西のことはな。あんな酷えことをするなんて信じられねえよ。あいつはいい奴だった」
55'35■つぐみの声で2人に気付く兄弟。
青年「君たちか」軽く頭を下げるまりあ。
56'07■つぐみ「お前なんていうの、名前?」<訊き方が粗野>
56'15■青年「俺は高橋恭一。これは俺の兄貴」
青年の兄「オッス」
恭一「お前らは?」 つぐみが答えないので、まりあが、
「山本つぐみ…、白河まりあ」
恭一「つぐみとまりあか」
つぐみ「お前って何やっている人?」
恭一の兄「こいつ、一応、長八美術館の人。でも、まだ、勤め始めたばかりだから、よろしく頼むよな、こいつ」
夜空を見上げて、しみじみと、恭一「俺、この町、すごく好きでさ。暮してみたいなって、ずっと思ってた」
58'00■喫茶店で藤内と会っているつぐみ。
藤内「こんな気分、久しぶりなんだよ」
つぐみ「鼻から血が出てるぜ」
鼻を拭いて確かめる藤内。
つぐみ「嘘だよ」

58'54■台所。豆のスジをとる女性従業員、南瓜の上に手を置いて、ぼんやりしているつぐみ。

59'38■ある強い雨の日。犬小屋にいるピンチ。自室のベッドで熱を出しているつぐみ。
1'00'32■長八美術館前で恭一を待つまりあ。薬を飲むつぐみ。
1'01'04■仕事が終了して帰って行く恭一の後をつけて、書店で偶然を装って恭一と会うまりあ。
まりあに気づいて、恭一「こんにちわ」
まりあ「あ、こんにちわ」
恭一「あれ、今日は、あの、つぐみさんは?」
まりあ「あぁ、つぐみ、寝込んでるんですよ。あの子、ほんとは、すごく体弱くて。あぁ、もしよろしかったら会いに来ませんか?」
まりあ「つぐみ、喜ぶと思うし」
返事を待っている風のまりあを見て、
恭一「行ってみようかな」
1'02'08■寝床に横たわって、時間を持て余し、顔を作るつぐみ。鏡を回すと、偶然旅館にやってくるまりあと恭一の姿を見つけるつぐみ。
1'03'02■旅館の中のあちこちを探す皆。
恭一「だって、すごく病人なんでしょ」
まりあ「わけの分かんない子なの」
玄関。手に見舞いのケーキを持っている恭一。
政子「どうしたの?」
まりあ「つぐみが部屋にいないのよ」
政子「えーっ、だってあの子ひどい熱なのよ」 旅館の外に、下駄履きで探しに出る恭一。<ケーキ置いて行けばいいのに>
布団部屋を探すまりあ。
トイレを探す従業員「つぐみちゃん?」
浴場を探す政子。
廊下でまりあと政子。
政子「いないのよ。全くどういう気なのかしら」
そこにやって来る恭一。
1'04'34■廊下の窓を開けて、盆栽棚に隠れているつぐみを見つける恭一。じっとして、恭一を見るつぐみ。
1'05'22■長八美術館で絵を見ているつぐみ。
来客との応対を終えてつぐみの横に来る恭一。
雀の絵の展示物。
1'07'06■旅館の浴場で床掃除をする父、空の浴槽で「キリンのワルツ」を歌うつぐみ。
「ラッタッタ ラッタッタ キリンのワルツ やさしくワルツで愛してちょうだい ラッタッタ ラッタッタ キリンのワルツ ふたりでワルツを踊りませんか 」
1'07'32■小川の風景、つぐみと恭一とピンチ(「キリンのワルツ」が流れている)
「キリンはどうして首が長い 教えてくれたらキスあげる ダーウィンさんでもわからないよな 素敵な答えを教えてね ラッタッタ ラッタッタ キリンのワルツ やさしくワルツで愛してちょうだい」
1'08'04■恭一の部屋で画集を見ているつぐみと恭一<「恋から」おかめちゃんのような顔は恐らく入江長八の作品>
1'09'28■仰向けに寝転んだつぐみ。
「…天使が通ったよ」
「今、天使が通った」
目を瞑り「天使が通ると、ドキドキして、体に悪いんだ」<つぐみは悪魔だからな>
つぐみが恭一を引き寄せて接吻する。
1'09'57■「ラッタッタッタ ラッタッタッタ ラッタッタッタ」
帰一寺の階段をつぐみを背負って登る恭一。
「ラッタッタ ラッタッタ」 ピンチも一緒。
1'10'25■浜川トンネルを抜ける松崎行きのバス。
1'10'42■バスターミナルでバスを待つまりあ。窓から手を振るまりあの父。バスターミナルの俯瞰。<まりあの父は船酔いするから松崎へは沼津からの船では来ない>
まりあ「いらっしゃい」
父「あぁ、こっちの香りだなぁ」
1'11'10■早速、海で泳ぐまりあの父。まりあに手を振る<ロケは西伊豆町の大浜海岸>
1'11'54■沖に泳いで行くまりあ。なぜか他の海水浴客はいない。
1'12'05■海岸でビーチパラソルの下で目を閉じて休んでいるまりあ。
まりあの父「そうか、つぐみちゃんは恋をしてるのか」。
トマトを食べながら、つぐみ「おう、してるとも」
まりあの父「そんなに、大恋愛してるのか」
つぐみ「いやぁ、おじさんには負けますよ」(堤防下に子どもがいる。こちらもトマトを食っている。背に蠅叩きあり)
つぐみ「どうなることかと思ってたら、恋をまっとうしちゃって。根気よく通ったよなぁ」
まりあの父「終わりが見えるものと見えないものとでは、きっぱりと分かれている。君のおばさんと出会った時も、突然、未来が無限に感じられた。だから別に一緒にならなくてもよかったのかもしれないな」
まりあ「そしたら私はどうなっちゃうわけよ」
まりあの父「君もいたし、今、幸福だしね。とにかく、言うことないよ」
父親、また、海へ駆け出して行く「最高だ!」

1'13'56■旅館の前で花火。

1'14'36■翌日、バス停のベンチに坐っているまりあと、父親<背広にネクタイ>。
まりあ「わかった。読んでみるね」
まりあの父「ちょっと難しいかも知れないけど、少しずつ読んでごらん」
通りかかったまりあの友人「まりあ」
友人に、まりあ「あぁ」
まりあの父「そして、何度でもゆっくり読み返してみるんだよ」 まりあ「分かった」
バスの運転手「お客さん、出ますよ」
バスに乗り込もうとする父。
まりあ「さぁ。ね、エボダイ買った?」
まりあの父「あぁ、母さんの好物だから」
まりあ「お母さんによろしくね」
まりあの父「お前も気をつけてな」
まりあ「気をつけてね」
まりあの父「元気でな」
去って行くバスを見送るまりあ。

1'15'37■防波堤にいるポニーテールのつぐみと恭一。背中合わせに坐っている。
恭一「熱あるな」
つぐみ「これぐらい俺には平熱だよ」
恭一「俺も、小さい頃、体悪くて、いつも熱出してた」 体の向きを変えて、つぐみ「嘘だろ」
無視して、恭一「熱ある時ってさ、世の中楽しいよな」
つぐみ「うん、ハイになる」
恭一「しょっちゅう熱出してると、ハイと普通を行ったり来たりする。どっちが本当だか分かんなくなるんだよな」
つぐみ、恭一の背に顔を臥せる。
恭一「昔、俺、本当に寝たきりの子どもだったんだ。心臓わるくてさ。信じらんないだろう」
顔をあげるつぐみ。
恭一「発作の時なんか、いつも何にも考えないようにしていた。目をつぶると、すぐにいらないことを考えてしまう。闇が嫌でいつも目を開けてた」
海と山の景色。
恭一「苦しさが通り過ぎるのを待つんだ。そういう時、俺、いつもタオルを見ていた」
岸壁の二人。
つぐみ「タオル?」
恭一「濃いブルーに外国の旗がずらっと並んでてさ。俺がちっちゃい頃から好きでさ。母親が枕カバーに縫い直してくれたやつ。そのずらっと並んだ外国の旗を横になった角度からじっと見ていると、不思議とやりすごせた。いつも、そうやってやりすごしてた」
恭一「今でも、嫌なことにぶつかると、頭の中にあのタオルの柄がバーンと浮かぶんだ。もう、そんなものこの世にとっくにないのにさ」
つぐみ「外国の旗なんか、思い浮かべて、やりすごしてんじゃねえよ。バカヤロウ」

恭一を突き放して、後ろ向きになるつぐみ。
「そいで、今はどこにでも行ける奴になれたんだよな。よかったじゃねえか」 つぐみを面と向わせ、
恭一「お前もなれよ。でも、どこにでも行ければいいわけじゃないんだよ。ここには山も海もある。お前の心は丈夫だし。ずっとここにいても、世界中を旅してる奴よりたくさんのものを見ることができるよ」
1'20'40■バイクのそばにいるピンチ。海辺に藤内一派が車でやってくる。
1'21'00■クラクションが聞こえる。ピンチが吠える。
1'21'34■不良たちが恭一を暴行する。バイクも倒される。
1'22'02■長八美術館の事務所内。額に包帯を当てて仕事をしている恭一。
1'22'22■美術館の前で、バイクに細工する2人の不良。
1'22'41■夕方になり、帰宅しようとする恭一。バイクに乗る。
1'23'19■「バーン」とバイク爆発。黒煙が広がる。
1'23'28■不良たちピンチを捕まえる。
1'23'35■ピンチを分かれて探すまりあとつぐみ(ヌード劇場、やきとり美都前とか)。
1'24'25■暗闇の砂浜でつぐみとまりあが出会う。
1'25'05■堤防の下で死んでいるピンチ。「愛してるぜつぐみ」の文字。
1'25'42■それを怒りの目で睨みつけるつぐみ。
1'25'53■ピンチの墓。
1'26'02■夜、寝床に戻り、倒れ込むつぐみ。
まりあの語り「それから、つぐみはとってもバカなことをやらかした。本当にそんなことが可能なのか、分からなかった」
寝床の陽子。
「最初に気付いたのは陽子ちゃんだった」
1'26'56■荒れた手のひらを見るつぐみ。
1'27'16■つぐみの部屋に入る陽子。つぐみは寝床にいない。
陽子がつぐみメモを見る。 メモ「てめえらをぶっ殺してやる。ディーゼル工場跡に9月4日午前0時来い。抹殺してやる。山本つぐみ」(「9月5日夜中の12時、処刑、地獄に落ちろ」とも内容が書き直されている。達筆のつぐみらしくない乱れた文字)
1'28'07■憔悴して町をふらふらと通りを歩くつぐみ。…倒れる。
1'28'28■まりあと陽子がディーゼル工場に行く。
陽子「ここ」
工場の敷地から建物の中に入る。
つぐみの掘った巨大な落とし穴を唖然として見るまりあと陽子。 「すごい穴だった。あたしも陽子ちゃんも、その、つぐみの掘った深い落とし穴を見ていたら、なぜだか、涙が止まらなくなった」
1'29'44■部屋の天井から見るつぐみの病床。
1'30'05■涙するまりあ、陽子、中江医師と看護師、父、母。
政子「…バカ」
1'30'42■夜半、町から出て行く救急車。
1'31'07■怪我をして、松葉杖で歩いて来る恭一。<ロケは大浜海岸近く>
1'31'34■喫茶店の主人「今度、いつ来るの?」
不良「もう来ねえよ」
店の前で藤内一派と遇う恭一。
1'31'42■煙草に火をつけようとする藤内を見つめる恭一。
何も言わず立ち去る5人の不良。
1'32'44■旅館の離れで話すまりあと恭一。
恭一「穴だって、何考えてるんだろうね」
まりあ「本当よね」
恭一「あいつのこと考えてると、いつの間にかとてつもなく、大きなことに行き着いてしまう。何か厳粛な気分になっちゃうんだよな。しょうがねえよな、あいつ」
まりあ「しょうがないわね、あいつ…。今年の夏って一瞬だったような、凄く長かったような不思議な気がする。あなたがいて、良かった」
1'34'32■松崎港。帰京するまりあ。
手に蠅叩きをもった子どもがいる。
見送る陽子(スローモーションで)。

1'35'26■東京の街、まりあの大学<明治学院大学>。

1'35'42■大学の教室で講義を聴いているまりあ。
1'36'01■友人と話しながら下校するまりあ。

1'36'14■駅でカレーライスを食べているまりあ。
つぐみからの手紙がバックに流れる「やる気が全くありません。無関心になったことなんて一度もない」。

1'36'30■電車内のまりあ。
手紙の続き「本当に何かがあたしの中から出て行ってしまったようです。あるいはこれが届く頃には、お前はあたしの葬式のために、こちらへ出向いているかも知れません。秋の葬式は寂しくて嫌ですね」

1'36'58■母親が高円寺のYonchome CAFeで茶を飲んでいる。(喫茶店内の時計は15時55分)
1'37'08■高円寺駅を降りるまりあ。
1'37'35■高円寺のバイト先Yonchome CAFeに着いたまりあ。
店を出て行きかける母親を見つけて、
まりあ「お母さん」
店長に「おはようございます」
1'37'46■母親がまりあにつぐみからの手紙を渡しながら「つぐみちゃんから」。
1'37'50■更衣室で手紙を見るまりあ(宛先郵便番号166阿佐ヶ谷西3-23-5ワコーレ阿佐ヶ谷703。62円切手)
1'38'08■喫茶店更衣室のまりあ。
手紙「私は、先日あのくだらないガキどものを落っことす穴を掘りながら、いろんなことを考えました」
1'38'26■長靴を履いて、水着を着ているつぐみ。泥まみれになりながら、素手でスコップで穴を掘る。
手紙の続き「私は居間まで、水着を着て海で泳いだ記憶がほとんどないこと。授業はいつも見学だったし、考えてみればクロールもできません。毎日、学校へ行く途中のあの坂道で、必ず息が切れたことも、長い朝礼に参加したことがないのも思い出しました。そういう時」

1'39'05■登校中のつぐみ、月夜、海辺のつぐみ。 手紙の続き「いつも、つぐみは、このちっぽけな足元ではなく、青空ばっかり見上げていたんだと思います」
穴を掘り続けているつぐみ。
手紙の続き「そして、私は、自分の輪郭をはっきり見た気がしました。私は今までこの弱い体を周囲の人々に、やっとのことで支えられながらも」

1'40'00■喫茶店内で働くまりあ。
手紙の続き「ヒスをまき散らして、わがままに生きながらえてきた小娘にすぎなかったということを…。布団が重くて息が苦しい。飯もろくに食えません。食えるものと言えば、うちのばばあが持って来る漬け物なんかだって。笑っちゃうだろ、まりあ。寝覚めも最悪さ。口は乾いているし、頭はずっしり重いし、熱に干されてミイラになったようだ。でも、カーテンと窓を開けると日差しと一緒に潮風が入って来るんだ。あたしは半分目を閉じたまま、明るいまぶたの中で」
1'41'18■病室から見た街。
「うとうとと犬の散歩の夢を見る」
1'41'24■走るピンチの映像。
「あたしの人生はくだらなかった」
1'41'32■喫茶店内。思い詰めたような顔のまりあ。
「いいことといったら、そのくらいしか浮かんでこないくらいのものさ。何にしても、この町で死ねることは幸せなことです。元気で。山本つぐみ」
1'41'48■給仕をするまりあ。
「お待たせしました」
「ステーキの方?スープは?サラダを真ん中に」
「これ、ドレッシングです。以上でよろしいですね」
1'42'14■まりあに電話が来る。
店員「白河さん、電話」。
まりあ「はい。すいません」
「はい、白河です。もしもし」
つぐみの声「よぉ、ブス」。元気を取り戻したらしい、受話器を握る笑顔のつぐみ。
1'42'39■波の音がして、終わり。
旅館の前で並んだ出演者の映像。 クレジットが流れる。
歌「おかしな午後」の中、エンドロール。
たいくつな昼すぎ ひとりで歩いた
かきねの向こうに 笑う男が見える
大きな白の犬に 骨のガムあげて 
おいしいかと 尋く声が耳に届いた
フシギなの あの日から時々
目覚めると なんか変なカンジ
いったいぜんたいどうしたの 
おかしいな
犬も男も どこにもいない
赤いペンを持って 二重丸描いた
一度会えるなら いっぱいほめてあげるの
眠いから いつでもフワフワと
わからない 夢か本当か
いったいぜんたいどうしたの おかしいな
犬も男もどこにもいない 
ああなんかもう わかんないわ
あの人は どこかで笑ってるんだ


エンドロールの中身
牧瀬里穂
中嶋朋子
白鳥靖代
安田伸
渡辺美佐子
あがた森魚
財津和夫
吹越満
高橋節子
■■まどか
■■麻子
高橋源一郎
歌■寅右衛門
なんきん
水野栄治
砂川真吾
野々村仁
辻木良紀
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いろいろな話題
■映画の魅力

tugumi
■映画の中に展開される、梶寅旅館前の道、瀬崎稲荷前の岸壁、漁船停泊している港、那賀川河口から広がる海というような風景。
あぁ、これらが愛すべきこの場所、ってとこかな。
そのほかに以下のようなカットが、海辺の町・松崎の魅力を、積み重ねていきます。 それは、 伊豆西海岸の海と山、ゆったり水の流れる河口、ひなたぼっこの老人、松並木、橋、海鼠壁、病院、寺の境内、桜並木、夜の漁港、漁火、月の輝く夜、飛ぶ鳥、川の中の白い花、海辺、就航船、焼けた砂浜、麦わら帽子、夏祭り、灯籠流し、川面の花火、雨、美術館、小川のせせらぎ、川面の花火、バスターミナル、防波堤、などです。
これらは、まりあが東京に戻ったあとの味気なさと比べて、とても対照的です。 松崎に懐かしさを感じるのは、かつて通過した「少年時代」の記憶を呼び覚ましているのではないでしょうか。

■好きな場面■

tugumi

■これまで出された、映画「つぐみ-tugumi」の好きな場面は、
8'02で、つぐみの部屋のカーテンが開き、タイトルが出る場面。
11'48で、子供蹴り飛ばしたりしながら歩いてるところ。
20'02で、まりあの勉強机の前。まりあの微笑みの場面。
1'05'22で、美術館でつぐみがゆっくり歩いて観賞しているときの二人の距離感。
1'09'28で、「いま、天使が通ったよ」の場面。

■「いま、天使が通ったよ」の場面というのは、一つの話題で盛り上がっていたときほど、次の話題を選ぶのに戸惑う。そこに、会話や座談などの時、白けた沈黙と空気が流れる。
フランスでは、そんなとき、誰かが「あら、今、天使が通ったわね」と言う。これといった意味はないが、沈みかけた座を救う便利な一言。話の合間のちょっとした沈黙を救う言葉である。。
加えて、何といってもいい場面は、
1'15'37で防波堤にいるポニーテールのつぐみと恭一。背中合わせに坐っている。
恭一の「熱あるな」から、つぐみ「これぐらい俺には平熱だよ」 以降のやりとりでしょう。
特に、 西伊豆の海と山の景色が途中に入ったあと、
「そいで、今はどこにでも行ける奴になれたんだよな。よかったじゃねえか」と悪態をつくつぐみに対して、面と向かいあわせになって、真剣な顔で、
恭一「お前もなれよ。でも、どこにでも行ければいいわけじゃないんだよ。ここには山も海もある。お前の心は丈夫だし。ずっとここにいても、世界中を旅してる奴よりたくさんのものを見ることができるよ」
というところでしょう。
これらの言葉は、ほぼ原作から取り入れられていますが、脚本を起こす時点でしっかりと原作を読み込んだという市川監督の姿勢に好感が持てます。
■自分のことを悪魔であると自覚しているつぐみは、
44'00の「夏祭りの夜、離れで浴衣に着替える」場面で、 「天にまします我らの父よ」というところを、「地獄にまします我らの悪魔」。というような偽悪な娘。
それで、
1'09'28で仰向けに寝転んで「今、天使が通った」目を瞑り「天使が通ると、ドキドキして、体に悪いんだ」つぐみが恭一を引き寄せて接吻する。
という場面はとてもいい。恭一もいい感じ。
■どこか、かなたのサイトでも論じられていましたが、
1'07'06の旅館の浴場で床掃除をする父、空の浴槽で「キリンのワルツ」を歌うつぐみの場面が、ほんわかしていいですね。
一説では、つぐみを見て父親が喜んでいるらしい。
仮にそうでなくても、ふだんは悪態をついている娘でも、こういう風になついてくれるのは父親として嬉しいものです。

tugumi

■就航船こばるとあろー

tugumi
■37'26の就航船「こばるとぶるー」について。
沼津から松崎の就航船は、最初、「こばるとぶるー」と思っていたら、「こばるとあろー」だった。
これは、海のコバルトカラーと高速船をイメージするアロー(矢)からきているのだろう。
伊豆箱根鉄道経営で、1999年当時の時刻表によれば、沼津発<30分>戸田<20分>土肥<25分>堂ヶ島<10分>松崎着。松崎までは1時間25分。運賃片道大人4500円。土・日・夏休み1日6便、平日4便、冬3便。
就航船は、大きさ160-165tで、こばるとあろーという名前の船が数隻、同時に運航されていた。
こばるとあろーは1974年3月29日初就航、
こばるとあろー2は1975年4月1日初就航、
こばるとあろー3が1979年3月21日に初就航している(〜1999年3月)。
その後、
2代目のこばるとあろーは1987年7月25日初就航(〜2002年7月)、
2代目のこばるとあろー2が1989年7月8日初就航、
4号を飛ばして、
こばるとあろー5が1991年7月21日に初就航、
この時点で、1、2、3、5号の4隻による運航となった。
2003年6月には、
2代目こばるとあろー2と2代目こばるとあろー5で運航していたが、 その3ヶ月後、8月31日、伊豆箱根鉄道は西伊豆航路を廃止した。
映画「つぐみ-TUGUMI」は、1990年公開だから、この時のこばるとあろー2は2代目の船ということになる。

■梶寅旅館のこと

tugumi
■どなたか、梶虎旅館に宿泊した人がおられますよね。
だいたい、旅館の構造はどうなっているのでしょうか?
映画によると、
1 玄関の正面が帳場。
2 玄関の左手にテレビのある部屋。
3 階段は両側にある。
4 つぐみの部屋は、玄関を入る左上の角部屋。
5 中庭に物干し台。つまり本館はコの字形。
6 では、高橋兄の宿泊した部屋は?
7 夏休みに帰省したまりあの宿泊した部屋は?
8 2階の渡り廊下の先、離れ別館の2階には客室があるの?
9 別館の1階は、まりあ親子が住んでいたのですよね。
10 浴場はどこにあるの?
11 客室は全部でいくつくらいあるの?

■つぐみと子ども tugumi
■「つぐみを好きな子どものこと」
■つぐみの性格を側面から表現していて、原作にはない子どもとつぐみとの一連の交流がいい。 子どもが対等に相手をする大人はいつの時代も素敵である。
○冒頭、子どもに尻をラケットでぶたれて、そのあとで子どもの尻を蹴飛ばすのは、<蹴るだろうと思ったら案の定>予想どおりのシーンだった。 蹴飛ばされた子ども、彼はつぐみの友達である。蹴りを入れられても、つぐみに相変わらず着いて来る。つねに構ってもらいたいのだ。
○つぐみが病院へ行く日と時間を知っていて、病院へ行く時は、必ずつぐみを待っている。
恭一が兄を訪ねて来た時、それはつぐみがちょうど病院へ出かける時間で、子どもは梶寅旅館の前で蠅叩きを手にして待っていた。 その後、つぐみと戯れながら病院に向っている。
○海岸でつぐみ、まりあ、まりあの父がビーチパラソルの下にいるとき、彼も堤防の下にいて、トマトを食っている。蠅叩きは忘れていない。
○つぐみはいないけれど、まりあが帰京する港へも来ていた。
○ただ、まりあが松崎に帰郷した時もつぐみのそばにいた彼は、その時も、つぐみの尻を殴る。この時のつぐみの対応はもう少し脚本を煉った方がよかったような気がする。彼をうるさそうに、つまり普通に対応する
○もうひとつ、遊び的な要素を考えれば、もう2ヶ所くらいに子どもを登場させるのも効果的で面白かったはず。 これがあまり多いと主題が曇るので、映像のどこかに、安野光雅の「旅の絵本」のようにさりげなく。
■死を意識するということ tugumi
■58'00で喫茶店で藤内と会っているつぐみ「鼻から血が出てるぜ」の場面は象徴的。藤内にとって、つぐみは別の側にいる人間なのだ。 吹越満(映画「ホワイトアウト」での悪役的人物が良かった)演じる藤内が、「こんな気持ちひさしぶりなんだよ」と言って、「鼻から血が出てるぜ」と、つぐみからからかわれる。 不良グループのリーダーともあろうものが、つぐみごとき小娘に手玉にとられるのは、 つぐみの特別な存在にその理由がある。 つぐみの強さは隣り合わせの死を持っていることにある。いつでも自分の死を本気で俎上にすることができる人間。これは、普通の人間からすればすこぶる魅力に思えるのである。 自然死でない死を身の内に持っている人間だけにある不敵な強さ。 それは、普通の人には分かっていても、本当の理解はできない。 これは知識ではなく、感覚の問題なのである。 両親も周りの人間も誰もが、あそらくそれを知っているが、単なる知識であることと、その感覚を所有していることとは決定的に違うことなのだ。 中途半端なワルの不良も、もちろん理解できないこの強さを持ったつぐみには敵わない。 それは不良の最も憧れる「強さ」でもあるわけだが、だからこそ藤内はそういうつぐみに惹かれている。 藤内もその強さが欲しい。しかしそれは無理だ。車で正面衝突ゲームをしても、最後にハンドルを切ることになったり、百戦錬磨の剣豪でさえ、死生眼を持っている子どもの大五郎にはなれないのと同様。

■つぐみの配役について

tugumi
■そうはいっても、つぐみは男言葉を遣い、悪態をつくことで死の恐怖に対峙するバランスを保って生活している。<乱暴な言葉でも悪意のないことを周りの人間は理解しているはず>。
だが、つぐみも自分の弱さに最後に気付いたのだ。「わがままな小娘にすぎなかった」。

適役といえば、最初、つぐみの役を中嶋朋子が願ったそうだが、主演のつぐみは、牧瀬里穂が断然適役と思える。「東京上空へいらっしゃい」も良かったらしいが、「男はつらいよ」第47作「拝啓車寅次郎様」で、滋賀県長浜に住む、満男の先輩の妹・菜穂役も好演だった。牧瀬里穂は、こんな風な男っぽい役がよく似合う。
また、真田広之のサラリーマン設定とその演技について、巷では「良い、悪い」の賛否両論があるようだが、良かったのでは? 「あがた氏が実父」のことは、僕も意外でした。 原作には次のようにあります。 (海水浴の場面で) 「浜に着いて、着替えをしたとたん、父は待ちきれず、 「まりあ、先に行くぞ!」と叫んで波打ちぎわに 走っていってしまった。 ひじから下の父の手の形が あまりにもよく似ているのを見て、 ふいにどきりとした。 やはりまぎれもなくあの人は私の父なんだ、 と、日焼け止めをぬりながら思っていた」 (中公文庫・P124、改行は引用者) このように、結構、手の形、指の形が親に似ているという ことは、仕草などとともに多々ありますね。

■原作と映画 ■原作と映画のどちらがいいかということも議論されたことがあります。 「牧瀬里穂一世一代の当たり役」という人の一方で、「牧瀬のヒステリックな演技だけが印象的。駄作」「原作は大好きなんだけど映画版はいまいちだった」「原作と違うのは別にいいけど、映画としての価値ゼロだとおもう」「恭平が背広着てるのはなんだよ。社会人で仕事してるのはなんだよ。…小説の雰囲気台無し」という意見もありますが、小生は圧倒的に、小説より映画がいいと思うし、牧瀬里穂も適役だと考えています。 映画を先に見て、原作を読むと、各場面で頭の中に出演者が登場してくるので、これはどうしょうもありません。 原作を先に読んで、あるイメージを描いて、映画を見ると、「こりゃぁ違う」と思う人もいるでしょう。小生は、映画→原作でしたので全体的に違和感もなく、ネクタイをしている恭一、の方がしっくり来ました。
■原作と映画で、相違するところを探ってみました。 確認できないところがあるので、誰か教えて下さい。 1 まりあの母親は、つぐみの母親の政子さんの妹でしょうか?姉でしょうか? 原作では、「母の妹である政子おばさん」とある(中公文庫・P12)。 2 年齢のことですが、まりあとつぐみは同い年ではないのだろうか? 原作では、「陽子ちゃんが私より、私がつぐみより、ひとつ上だ」(中公文庫・P12)。 3 陽子ちゃんは、眼鏡をかけているのでしょうか? 原作では、「丸いメガネをかけたやさしい横顔で陽子ちゃんは笑った」とある(中公文庫・P38)。 4 ついでに疑問。まりあの父が東京へ戻る時に乗ったバスはどこ行き? 原作では、「まっすぐ東京へ向かう急行バス」とある(中公文庫・P134)。

img src="tugumipho/123.jpg" width="200" height="140"alt="tugumi">■わがふるさと

■ 旅館の前が海というロケーションはいいですね。 吉本ばなな氏が毎年、避暑に、なぜ松崎に行っていたのかはわかりません。 小生の母親の実家が、海水浴場を前にした大きな海の家、というような、泊まることはできないが、たくさんの部屋のあるいわば旅館のようなところでした。だから孫である自分にとっては快適な海辺の宿でした。毎年、一夏、その祖母の家で、海水浴をして、海を眺めて過ごしました。それで、旅館「梶虎」のイメージはたいへん身近なものです。 写真の正面は現在営業中の旅館ですが、右手の山付きに家がありました。


■「科作り君」について

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■「科作り君=しなつくり君」とは、「わざらしく格好をつける人」の行為を嫌っているつぐみの気持ちから出たフレーズでしょう。
そういう飾り立てる態度を嫌い、直截的で、他人に媚びることを否定する生き方をしているつぐみがここで想像できます。
これも、つぐみ自身と、この映画「つぐみ-TUGUMI」の魅力のひとつです。 こういう何気ない状況展開につぐみの人柄の伏線が張られていることで映画の層を厚くしているのだと思います。
ところで、この「科作り君」のフレーズは原作にはない。
そうすると、監督・脚本である市川準氏の創作ということになります。
つぐみの性格を理解している市川氏が推察されます。
ところで、原作を読んで、当然といえばそうなのですが、後出しの映画の方が、 贅肉をそぎ落とし、すっきりした展開になっていると思いました。 すぐれた映画ですね。
ウィキペディアでは、167万部もこの「つぐみ」の単行本が売れて、 英語にも翻訳されているとのこと。
もっとも、その中に、松崎にまりあが船でやってきたものだから、ここを「島」と 勘違いしている記述はご愛嬌でしたが。

■劇中のテレビドラマ「少年オルフェ」について


■このテレビドラマは、1972年9月2日から9月23日までNHK「少年ドラマシリーズ」の一編として、毎週土曜日18;05-18;35、実写テレビドラマ放送した脚本・横田弘行、演出・黛叶「少年オルフェ」全4話のことです。吉本ばなな氏があとがきで明記しています。
■1972年の時は、宇宙的な効果音、異次元っぽいセット、音響効果とか、実写版でもちろん白黒。
1960年代にも別の感じで放映されたそうです。こちらも「黄泉へ旅立つロケットの内部は飛行機ぽかった。全体的にいわゆるSFな作り」だったということから、こちらも実写のような気がしますが、セット撮影。こちらがよかったという人もいます。
「少年オルフェ」を収録したテープは、現在と違い、当時高価であったため、他の番組制作に使い回されたためNHKに他の少年ドラマシリーズと同様にVTRが残ってない。そのため、全話の再放送及び完全版のソフト化はできない。そのため現在において本作の詳細な内容を知ることは困難であり「幻の少年ドラマシリーズ」になっている。
■さて、1972年の放映ですが、
1 原作は、1962年の米沢幸男著作の児童文学作品。第3回講談社児童文学新人賞を受賞作。同年、講談社から文庫として、米沢幸男(現、米沢百輝)/著、依光隆/絵で発売された。この原作本は1981年には、講談社の青い鳥文庫で米沢幸男/著、たにとしひこ/絵、復刊した発売された。
2 冒頭ナレーションは「オルフェはギリシャ神話の詩人です。黒いオルフェは死んだ妻を取り戻すために死者の国に行きました」という。ギリシア神話のオルペウスの伝説を元にしている。
3 ドラマの予告編では、霧に包まれた幻想的な風景の中、妹ふう子の「お兄ちゃん!」という声に「ふう子!」と兄の進が叫ぶ。 実際、妹は寸分の差でまた別のところに連れ去られたりする。
4 とにかく、亡くなった妹ふう子を連れ戻しに死の星に向かった兄の話、です。
■物語は、
第1回(1972年9月2日放送) 死の世界に住んでいて、退屈な死神の若者(柴崎敏)は一人ぼっちで日々が退屈でたまらない。寂しさを紛らすために、誰か一緒に暮らしてくれる相手が欲しい。もし自分に可愛い妹がいたら、うんと可愛がってあげるのにと思っていた。青年は魔界から地上を眺めた。そこで、とある兄妹に目を留める。そこにいたのは遊園地にやってきた小学五年生の堀田進(長田伸二)と、幼い妹の堀田ふう子(ふうちゃん-和田麻里)。
二人は、大の仲良し。妹に回転ブランコに乗りたいとせがまれるが、お金が足りない。苦肉の策で妹を背負い、ブランコの周りをぐるぐる駆け回る兄。喜ぶ妹。 財布を落とし、最後に残った金でジュースを買い、二人で分け合って飲む兄妹。しかしこれで帰りの電車賃が無くなり、家まで歩くはめに。もう動けないと駄々をこねる妹に、ついかっとなって「お前なんかいなくてもいい」と口走ってしまう進。 じっと様子を伺っていた悪魔は、このチャンスを逃さなかった。怪しげな横笛を唇にあて鋭く息を吹き込んだ瞬間、妹は突然の風邪をこじらせて倒れ、病院に運ばれた。医師も「どうすることもできない」と冷たく言い放つ。死神によって、死の世界に連れ去られてしまう。
大人はみんな意地悪だ。この医者も遊園地の切符売りのおじさんもそうだった。納得がいかない進は、自分で妹を助け出してやると飛び出して行く。 進が原っぱで途方にくれていると、突然一台のロケット-死者を運ぶ宇宙船が現れる。「死んだ人間に会いたい?…ならば自分も死ぬしかないな」いきなり出くわした謎の男は、進にピストルを向ける…。黄泉の国へ行けばふうちゃんを生き返らせることができるかもしれないと信じた進は、「妹に会いたい」と黄泉の国へ向かうロケットに単身乗り込み(進を間違って乗せてしまった、とも)、死の星へ向かって長い冒険の旅に出た。
第2回(1972年9月9日放送)
魔界に辿りついた進が妹を取り戻しに悪魔の元へ赴く。やっとの思いでたどり着いた「裁き星」だったが、そこのボス(大木正司)は「生きている人間を入れるわけにはいかない。どうしても妹に会いたければ死ぬしかない(少年に正しい心が有れば返してやろう、とも)」という。死んでは大変と進は逃げ出したが、それもつかの間、進は出口の無い部屋に閉じ込められて途方にくれた。この死神が気難しいけれど、騙せそうな大人など色々に変身して姿を現し、進がわがままな心や、他人が代わりに不幸になればいいという心を持っていると見抜いて、「約束を破った!」と指摘する。「私は、生まれつき子供に親切にするのが大嫌いじゃ」と言います。これが実はキーワードで、この言葉に怒ってイジワルすると、その大人は元の厳しい死神の姿に戻る。
つまり、「子供であっても甘えることなく、正直な生活をしなさい」というメッセージをがドラマに込められている。
この時この「裁き星」に進を連れてきたロケットの女性(谺のぶ子)が地球に帰るロケットが出るから乗せてあげると親切に声をかけてくれた。
第3回(1972年9月16日放送)
「気味の悪い死の世界から無事に妹を見つけ出したら、二人とも地球に返してやろう」と言うボスの言葉に意を決した進は出発した。と、前方の暗闇から光る二つの目が近寄ってくる。その目をめがけて板切れを振り下ろした進の前に、進が助けたピエロ(大木正司-3役)が痛そうに顔をしかめて座り込んでいた。しかしピエロは進に妹探しの協力を約束してくれた。気味の悪い夜も更け、二人旅になったので進は勇気百倍。
最終回(1972年9月23日放送) 妹を死の世界から連れ戻そうとする進にユートピア博士(大木正司-3役)は、サボテン国のメモリー草を探せと言う。サボテン国の女王(里見京子)は、決闘場に二人を誘い入れ、騎士との戦いを挑ませる。おびえる博士。しかし進は妹を助けたい一心で、勇敢に立ち向かって行く。「博士、もしメモリー草が博士の手に渡ったら、ふうちゃんだけでも地球に還してね」と言い残して…。やっとの思いでメモリー草を手にしたかのように見えたが、ふうちゃんの記憶を呼び返し、死の世界から救ったのはメモリー草では無かった。
少年は悪魔と戦って勝ち、妹は意地悪な青年から解放され喜ぶ。 ところが亡くなった人の世界では記憶がなくなってしまうため兄のことを「風船屋さん」と呼び、全く覚えていない様子。がっかりする少年。しかしふうちゃんがお礼に用意した飲み物(薬とも)を、二人で分け合って飲む。
気が付くとそこは病室。ふうちゃんもすっかり元気になった。少年が医師に「先生は、生まれつき子供に親切にするのが大嫌いな方ですか?」と尋ねると、「いや、そんなことはない」と答える。意地悪だった大人たちも今はにこやかに話しかける。
進たちは元の世界に戻ってきたのだ。
「少年オルフェ」の件は、単行本でなく、文庫本のあとがきに記述された中にありました。(中公文庫・P234)。
ところで、海辺の町には、夕暮れ時や、夏の宵にこういう海岸部の雰囲気があります。水銀灯や誘蛾灯の明かりが幻想的です。
それで、映画「つぐみ」を見た人は「松崎に行きたい」と思うのでしょうね。

■好きな場面

■これまで出された、映画「つぐみ-tugumi」の好きな場面は、
8'02で、つぐみの部屋のカーテンが開き、タイトルが出る場面。
11'48で、子供蹴り飛ばしたりしながら歩いてるところ。
20'02で、まりあの勉強机の前。まりあの微笑みの場面。
1'05'22で、美術館でつぐみがゆっくり歩いて観賞しているときの二人の距離感。
1'09'28で、「いま、天使が通ったよ」の場面。
■「いま、天使が通ったよ」の場面というのは、一つの話題で盛り上がっていたときほど、次の話題を選ぶのに戸惑う。そこに、会話や座談などの時、白けた沈黙と空気が流れる。 フランスでは、そんなとき、誰かが「あら、今、天使が通ったわね」と言う。これといった意味はないが、沈みかけた座を救う便利な一言。話の合間のちょっとした沈黙を救う言葉である。
加えて、何といってもいい場面は、
1'15'37で防波堤にいるポニーテールのつぐみと恭一。背中合わせに坐っている。恭一の「熱あるな」から、つぐみ「これぐらい俺には平熱だよ」 以降のやりとりでしょう。
特に、 西伊豆の海と山の景色が途中に入ったあと、 「そいで、今はどこにでも行ける奴になれたんだよな。よかったじゃねえか」と悪態をつくつぐみに対して、面と向かいあわせになって、真剣な顔で、 恭一「お前もなれよ。でも、どこにでも行ければいいわけじゃないんだよ。ここには山も海もある。お前の心は丈夫だし。ずっとここにいても、世界中を旅してる奴よりたくさんのものを見ることができるよ」 というところでしょう。
これらの言葉は、ほぼ原作から取り入れられていますが、脚本を起こす時点でしっかりと原作を読み込んだという市川監督の姿勢に好感が持てます。
■自分のことを悪魔であると自覚しているつぐみは、
44'00の「夏祭りの夜、離れで浴衣に着替える」場面で、 「天にまします我らの父よ」というところを、「地獄にまします我らの悪魔」。というような偽悪な娘。
それで、
1'09'28で仰向けに寝転んで「今、天使が通った」目を瞑り「天使が通ると、ドキドキして、体に悪いんだ」つぐみが恭一を引き寄せて接吻する。
という場面はとてもいい。恭一もいい感じ。
■どこか、かなたのサイトでも論じられていましたが、
1'07'06の旅館の浴場で床掃除をする父、空の浴槽で「キリンのワルツ」を歌うつぐみの場面が、ほんわかしていいですね。
一説では、つぐみを見て父親が喜んでいるらしい。
仮にそうでなくても、ふだんは悪態をついている娘でも、こういう風になついてくれるのは父親として嬉しいものです。

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松崎紀行
■中江病院 ■初めて松崎に行きました。といっても、伊豆半島は3度目。松崎は以前、通過しただけで、「関心がないとただ通過する町でしかない」というのが、典型的にわかります。 まず、中江病院です。
意外なところにありました。 写真を撮りました。待合室は年配者でいっぱいでした。受診者のふりをして中に入ればよかったかな。
<pho1は病院建物、pho2は藤棚、pho3は待合室>
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■梶寅旅館へ ■それから、中江病院の前の通りを進んで、看板がかなり薄くなっているまつもと青果の三叉路を右折すると、豊崎ホテル。 ここは松崎温泉のひとつ。やはり伊豆は温泉なのでしょうか?温泉半島である伊豆は、東伊豆に熱海、網代、伊東、宇佐美、北川、熱川、稲取、今井浜、中伊豆には伊豆長岡、大仁、修善寺、湯ヶ島、河津温泉郷、南伊豆には下田、蓮台寺、河内、下賀茂、そしてこの西伊豆には、土肥、堂ヶ島、松崎、岩地、石部、雲見などがあります。 ブログで見ると、どうも豊崎ホテルの4階の露天風呂から、梶寅旅館が俯瞰できそうな感じ。B&Bで、6955円(1人だと8530円)らしい。夕食は道路向いにあるレストラン民芸茶房で1050-3150円程度。Check-in15(最終23時まで)- Check-out10。 豊崎ホテルのすぐ先に、いよいよ、梶寅旅館です。単なる「宿の一軒」ではありません。他の宿と比べると何と魅力的な建物でしょう。 文化財審議委員が地元の文化財を見るときの気持ちってこんなのでしょうか? 初めてなのに、梶寅旅館の周辺は、何だか見慣れた風景です。 建物入口にある細長い看板には「つぐみの宿」とあります。ふむふむ、知っていたけど。 建物に向って入口の左上を見上げると、そこがつぐみの部屋。 何だか、青春時代に、付き合っている彼女か、あるいはただ憧れているという関係だけの女性の部屋を見上げているようで、今でいえば、まるでストーカー。 つぐみは恋愛の対象というよりむしろ、ひとつの存在なのだね。けれど「つぐみ」とは違う、もうひとつの恋愛的物語が思い浮かびそう。 つぐみのこの部屋は映画のカットで見ると、窓枠などが正にそのまま。「映画パンフに、つぐみの部屋は窓の外の景色をより良いものとするため、付近の山の中に仮設の建物を造り、その部屋を撮影では使用した、みたいな記述があったよう」といわれているので、撮影用に同じ構造の部屋をどこかに造ったというのは本当でしょうかね。
<pho1は旅館建物、pho2は玄関、pho3はつぐみの部屋>
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■梶寅旅館 ■梶寅旅館の玄関は閉まっている。もちろん、営業はされていない。 人気のない旅館の玄関を、不審人物さながら覗き込むと、正面に、映画の時と同じ「善気迎人」の文字の額。 「善気迎人」とは、「思いやりのある気持ち・態度で人を惹きつける」とか「善意が人を招き入れる」「善良な人を迎え入れる」とかいわれているが、 旅館人の姿勢として「気持ちよく人を迎える」ということだろうな。 それにしても、当時、覗き込んだ旅館の玄関は想像していた以上にかなり狭かった。 まぁ、映画ってそんなものだけれど。 そうすると、旅館の浴槽も、物干し台、まりあの離れの部屋も狭いのかな。 玄関に置いてあった青い花瓶も映画の時のまま。 不思議に建物の中を見たいなどとは思わない。もちろん人がいれば、迷うことなく、積極的に見学させてもらうはずだけれど。 映画の中では、 50'05■そうしている内に、青年の兄が階段の上から覗き下ろし「よぉ」 青年「やぁ」 青年の兄「上がれば」 青年、上がるのを見送る父親。つぐみは靴を履き、出て行く。 という場面で、画面の左上にその額が見えています。
<pho1は玄関内、pho2は額、pho3は映画の中の一場面。左上に同じ額の一部が見える>
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■民宿旅館梶寅

■「できれば旅館を再開したい気分だ」というのは、 「無理をしてでも再開してもらいたい」というのではもちろんなく、 了承されれば、旅館を、私自身が再開したいという意味です。 本格的な旅館経営でなくてもいいので、 民宿・梶虎旅館という名称のイメージ。 つまり、廉価で気楽に泊まれる宿。 自分で布団を敷くような宿。 1泊でなくて、連泊することも、余裕でできるような宿…。 新鮮な魚介類も食べられるが、自炊をするようなイメージの宿…。 ある部屋をミニシアターにしていて、毎晩「つぐみ-tugumi」を上映しているような宿…。 「セカチュウ」の人たちにも利用してもらえるような宿…。 そんな宿が理想的かな?

そこで、思いついたのですが、「つぐみ2-tugumi-2」という映画、というか小説というか、そんなのができませんかねぇ? 時代は2010年代、夢が広がりますが。安田伸氏は亡くなりましたが、渡辺美佐子さんは存命だし。 もっとも、これは原作者次第のことですが。

■旅館と離れの間の通り
■梶寅旅館の隣には瀬崎稲荷がある。その横合いの通りには、梶寅旅館の別館。 本館とは渡り廊下で結ばれている。この構造はちょっと珍しいと思う。 きっと、旅館の長い歴史があるはず。 この廊下は、映画の中で出窓のように植物の鉢が置かれていたところだろうと思う。 渡り廊下の下部には、あの裏玄関がある。「あの」というのは、まりあのケーキ屋での最後のバイトの夜、戻って来た場面のこと。まりあの母も旅館で働いていた頃、ここから出勤していた。 離れの格子窓を見た。「ぶす」の文字の外に見えたのもここだろう。 まりあ母子の住んでいたあの離れや、旅館の建物背後にあるであろう物干し台は見ることはできなかった。
<pho1は本館と離れとの間にある小路、pho2は離れの格子窓>
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■瀬崎稲荷

■梶寅旅館の建物や、旅館に隣接する瀬崎稲荷神社、岸壁に舟の繋留された那賀川河口の風景は初めてなのに、何度も来たような気がする。何よりも那賀川のゆっくりとした流れがいい。 国道136号線が松崎の町に下って来る対岸の風景も懐かしい感じ。 ここは、かつて走ったことがある道だけど、通り過ぎただけの町。
<pho1は瀬崎稲荷、pho2は梶寅旅館の対岸>
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■旧松崎港 ■梶寅旅館から海の方に向う。 旅館からはわずかの距離。まりあを迎えに行くのも普通の感じ。 かつて就航船が接岸した岸壁は、往事の姿はほとんどない。 待合所も完全に寂れたままで放置されている感じ。 そこにいたのんびり人とは目を合わせただけで、その先、漁船の係留された先、松崎海岸が見える防波堤で釣りをしていた埼玉の御仁と話。奥さんは松崎の人という。 ここからは、松崎の海水浴場、松崎伊東園ホテルと伊豆まつざき荘の2つのホテルなどが見える。 映画撮影の時は、単なる防波堤だったのが、綺麗な階段になったりして雰囲気が違っている。
<pho1は松崎海岸、pho2は象徴的な赤い標識と沈む夕陽の作画したもの>
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■松並木の通り ■船乗り場から豊崎ホテルと民芸茶房の近くにある漁協直売所に行く。ここは映画の最初の方で、つぐみが中江病院に出かけた際、陽子と行き会って、歩いて行った最初のポイント。 漁協直売所の横にあった、老人の坐っていたあの消防ポンプ小屋は老朽化のため2009年に取り壊され、いまは駐車スペースになっている。 直売所の中には、平日あるいはオフシーズンという状況で、あまり商売熱心にはなれない担当者が1人いた。 北側には松並木が続く。 はやまという薩摩揚げの店があった。 海水浴場に立ち寄ってから、ときわ大橋を経て、松崎町観光協会へ。 <pho1は消防小屋跡地つまり松並木の北方向、pho2は松並木の南方向を見る>
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■松崎人と ■ときわ大橋の上で、散歩をしていた地元の80代の老人と話。若い頃は松崎の山で焼かれた木炭を沼津の方まで船で運んでいたという。 毎年行なわれている夏祭りの夜店の数が減ったこと、那賀川の灯籠流しの数も少なくなったことなどを聞く。もしかして梶寅のかつての時代を知っていたかどうか、残念ながら聞き漏らしてしまった。 ところで、映画ではつぐみは中江病院へ行くのに、ときわ大橋を経てから病院というルートだった。 中江病院は、まつもと青果からまつざき荘へ行く通りにあるのだから、完全に遠回りになるはず。あるいは町内の散歩を兼ねていたつぐみの行動かなとも思えるけれど、どうなんだろう。 <pho1はあの「けとばし」の場所>
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■松崎町観光協会 ■ときわ大橋の先にある観光協会の建物はやはりなまこ壁。 ここで初めて地元の地図を入手。 「伊豆松崎温泉郷ごあんない図」の他、時代の流れであろうか「人気ドラマ世界の中心で愛をさけぶの松崎町ロケ地マップ」があった。それなりに詳しい(のだろう、見てないからわからんけど)。 映画の公開のときから時間はずいぶん経ったけど、「つぐみのロケ地マップ」も誰か作れよ! 松崎町観光協会のリーフレットは、この他に、 「伊豆松崎スケッチコンクール」「伊豆松崎心に残る写真コンクール」もあった。 うむ、それなりのことがやられているな。 観光協会から、なまこ壁通りをちょっと見て、浜丁橋の方へ戻る。<pho1は松崎町観光協会の建物、pho2はなまこ壁通り>
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■那賀川沿い ■那賀川に架かる浜丁橋の畔にあるなまこ壁の依田邸に行く。すぐそばには船泊まりの小港がある。これも珍しい。 川沿いに遡って、再びときわ大橋時計台の横にある中瀬邸に行く。ここは明治時代の商家で当時の様子が再現されている100円。足湯もあるらしい。なおこの近くには3時間まで無料(以後1時間わずか100円)の無料駐車場がある。 夏祭りで夜店の出る通りには、長沢青果もある。この通りは少し店舗が並んでいる。ここは大型店が松崎にこない中、昔ながらの買い物街のひとつということになるだろうか。 町中をつぶさに見たわけではないが、全体的な松崎の街の特徴は、昔の町の佇まいが残されていることかも知れない。 このように小売店、飲食店が残されている町が観光的に変貌する必要があるのか、それともこのままでいいのか考えた。 東伊豆稲取温泉のような、事務局長を招いての町興こしなどということが必要なのだろうか? <pho1は依田邸、pho2は中瀬邸>
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■松崎町中心部 ■ときわ大橋から、白井呉服店の横、土徳の十字路を右折して、観光協会、足湯、伊豆文邸と走って、国道136号線に出る。そして伊豆の長八美術館へ。 新しく鏝塚もできていた。 建物はユニーク。駐車場も広い。 国道136号を走って、あの東海バス松崎ターミナルへ。町の中心部らしく途中には銀行や郵便局がある。 バスターミナルのそばにも警察署やホテルも並ぶ。 <pho1は伊豆の長八美術館建物、pho2は美術館入口、pho3は東海バス松崎ターミナル>
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■帰一寺

■松崎の他のポイント、長八記念館のある浄感寺、神明水の湧く伊那下神社、名園のある浄泉寺、仏の小道、町民の森、伊豆松崎マリーナなどの他、岩科地区にある重文の学校、天然寺、なまこ壁の里などもあるのだろうが、1時間30分しかいないというのも妙。今度またという機会があるかどうか。 東海バス松崎ターミナルから県道15号線を走る。
途中は那賀川沿いに桜並木が続く。この松崎は「さくら葉」の生産が全国の80%の量で日本一という。桜の下には紫陽花が咲いていた。
帰一寺に到着。寺の説明板には以下のようにある。 「萬法山帰一寺 このお寺は、臨済宗建長寺派で正安3年(1301)元の国(中国)の高僧である一山一寧によって開かれ当初は帰一庵と称したがのちに帰一寺と改めました。本堂は、弘化5年(1848)に再建されたもので棟梁は宮大工・寺大工の名工といわれた石田半兵衛がつとめました。寺宝には一山国師の自画像一幅と自筆絹地一幅、語録2巻が伝わっているほか一切経六千七百巻があります。本堂裏の優雅な庭園がみごとで伊豆の代表的名園の一つです。伊豆横道三十三観音霊場の第2番札所、伊豆八十八ヶ所霊場の第80番札所にもなっています。松崎町」
山門を通過すると、センサーでピンポンが鳴る。なるほど。 「本堂裏の優雅な庭園」というのは見なかった。
<pho1は紫陽花の咲く県道15号線、pho2は帰一寺山門、pho3は帰一寺境内>
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■道の駅三聖苑

■帰一寺の少し先にある道の駅花の三聖苑に到着。
ここには、食事喫茶天城山房、温泉会館かじかの湯の他、松崎出身の三賢者といわれる土屋三余、依田佐二平、依田勉三を紹介した郷土文化保存施設三聖会堂と移築復元された大沢学舎がある。 土屋三余は漢学者。依田兄弟の恩師、依田家から土屋に嫁している。本名は行道で、三余は号、「勉学は、農業の暇な時間、すなわち雨の日、1日のうちの夜、1年のうちの冬にせよ」ということから。無料の学問所を松崎で開いて、多くの知識人を輩出した。墓所は実家そばの西法寺。 依田佐二平は、大沢村の名主。大沢に製糸工場を設立。静岡県議会議員、賀茂・那賀郡長。汽船会社を経営。のち衆議院議員。 依田勉三は佐二平の弟で、明治時代に帯広開拓をした人物。信濃の豪族の出、現大沢温泉のある場所で庄屋。 「花の」というだけあって、きれいな道の駅で、平成8年度の静岡県都市景観賞の優秀賞にも選ばれている。 松崎町は桜葉塩漬け、桜葉そば、桜葉クッキー、桜葉アイスも有名。
ところで、ここにあの会津藩家老・西郷頼母が一時居住していたのにびっくり。 松崎は会津と関連があるらしい。
西郷頼母は、諱は近悳、頼母は通称、1830年生まれ。32歳の時、会津藩の家老になる。
1868年の戊辰戦争の際、頼母本人は長男を伴い、登城、残された一族21人が自邸内で自決したことで知られる。
主戦派すなわち和平反対派に追われ、会津若松城を去り、翌年の箱館・五稜郭戦争で敗北して、館林藩に幽閉された。 こののち西伊豆松崎に登場する。
1972年、西伊豆一帯の子弟教育のため、名主の依田佐二平、佐藤源吉、福本善太郎、奈倉惣三郎が江奈(現在、警察署などのある松崎中心部)にあった陣屋跡に謹申学舎を開校した。
その際、静岡学問所の旧会津藩士の林三郎の所にいた、維新後、保科の旧姓を称していた保科頼母を松崎に招いたのだった。
その時、松崎にやってきたのは西郷頼母の他、旧会津藩士の林繁樹、山口昌隆(岩科にある天然寺に墓)、大嶋篤忠(松崎高校の近くにある禅海寺に墓)、墨田直水の5名。
道の駅花の三聖苑に移築された私塾大沢学舎は大沢村の戸長・依田佐二平が自邸内に設立していたもの。そこには大嶋篤忠を招いた。 頼母は、1871年、江奈村寧香義庠で皇朝学漢学教授になり、翌年から2年4ヶ月の間、 月ノ浦で謹申学舎塾長を務めた。そして、その後頼母は磐城国都々古別神社の宮司を経て、1880年、旧藩主容保の日光東照宮宮司の補佐として東照宮禰宜となった。神官制度廃止後に岩代霊山神社(棚倉町)三代目宮司・師範学校嘱託などを歴任。晩年は若松の十軒長屋に暮し、1903年、74歳で死去した。
<pho1は三聖会堂と大沢学舎、pho2は西郷頼母>
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<これで、2010年の松崎紀行は終了>

■梶寅旅館のこと ある人気ブログの「映画つぐみについて語るスレ」で紹介されたのは、地元紙のつぎの記事。
■「つぐみ」西伊豆松崎町-故郷の宿、今はひっそり
「廃業」の文字が、画面にあった。宿紹介のホームページを作った旅館組合に電話して、ちょっと驚いた。「ご主人がことし亡くなられたんですよ」 三島駅から西伊豆へ。電車と路線バスを乗り継いで二時間半。入り江の奥の、静かな船着場のそばに、宿はたっていた。特徴ある形の建物は、変わっていない。 「お風呂で倒れて。78歳でした。」松原しづ子さん(76)は、夫の他界後、一人で暮らしている。中伊豆の山あいから嫁いで54年になる。二人の娘も遠くへ嫁に行って年月がたち、家業を終える決心がついた。「なじみのお客さんも多かったですが。女手では骨の折れる仕事ですから」。 心残りはない、という穏やかな笑顔だった。
木造の建物は、昭和九年築。創業はそれより前の明治後期という。初代の寅吉さんが、船の「かじや」をやっていた。それで「梶虎」に。当時松崎は養蚕や木炭の産地として栄えた。港には多くの船が出入りし、旅館もにぎわった。 改築され、しゃれた外観になった梶虎は戦後、映画やCMのロケ地として注目される。何本の映画に登場したかは「数え切れない」(しづ子さん)。そのまま実名で宿が出てくるのは「つぐみ」が初めてだった。
物語は、旅館の娘つぐみ(牧瀬里穂)の幼なじみ、まりあ(中嶋朋子)の視点から描かれる。いったん故郷を離れたまりあは、松崎に帰ってきて”旅人”のような感覚になっている自分に気付く。一方、つぐみが恋人の恭一(真田広之)にもたれる防波堤のシーンがある。体が弱くて生まれ育った町を離れられないつらさをぶつけるつぐみに、恭一は「どこにでも行ければいい、というものではない」と諭す。
生まれ故郷で生きる人と、遠く離れた地から思う人。後者になって三十余年の記者は、古里の人々がうらやましく見える時がある。どっちが幸せなのか。映画を見ても答えが出なかったが、まりあが故郷に抱く「いとおしさ」は、痛いほど感じた。作品の公開時、梶虎には全国から若いファンたちが泊まりに詰めかけた。そんなロケの名所も、いまはひっそりたたずむ。まだ玄関先に出ている「つぐみの宿」の看板の前で、観光客が時折、写真を撮っていく。
「ここを借りたいという旅館業の方もいましたが。私は毎日、海を見るのがいい。窓から夕日がきれいで、前を船がゆっくり通って・・・。死ぬまでここに住みたいです」五十年を経て、松崎はしづ子さんの故郷になったのだろうか」(中日新聞2002年11月15日夕刊)

これに対して、ある人のレスポンス。 「良い記事だ…。梶寅廃業の詳細知って納得しました。残された奥さんが高齢ではしょうがないですな。でも梶寅のあの建物だけでも残っているのがせめてもの救い。しかし何本ものロケに梶寅が使用されていたとは初耳。それにしても中日新聞のこの記事の記者さん、あんたココのスレの神だよ。もう「つぐみの部屋」に泊まれないのはなんとも惜しい……」


松原しづ子さんさんはそれから10年近くが経ち、86歳になっている。
地元の囲炉裏端さんの情報によれば「梶寅旅館の女将さんは存命だと思います。本当に何らかに利用されればとかねがね思っていました。しかし、風の噂では壊されるのではないかということです。見慣れた景色が消えることは残念なことです。この旅館には明治23年ごろ民俗学者の柳田国男が泊まったのです。個人資産ですのであまり口出しできないのです」とのことです。
取り壊しが本当であればとても残念。町の有形文化財として保存できないかとも思いますが。
しかし、ご存知の通り2000年の冬、梶寅旅館は解体されてしまったのはとても残念なこと。

つぐみについて語る。
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