大山兼司


木村勇二(多喜二の従弟) さんを訪ねて

2008年1月26日の午前10時頃、シカゴ大教授のノーマ・フィールド さんと共に、木村勇二さんを獅子ヶ森の自宅に訪ねた。
勇二さんの父・勇八さんは多喜二の母セキの弟だから、勇二さんは多喜二の直の従弟にあたる。 1915(大正4)年1月17日生まれというから、もう満93歳なのだが、耳が違いのを除けば、 夏分は畑仕事もこなし、全体としてまだ矍鑠としたものである。
実はノーマさんは前にも1〜2度勇二さんに会っているのだが、今回大館の「多喜二を読む会」に参加する機会に、ぜひ又勇二さんに会いたいので連絡をとってくれないだろうかとの依頼があった。 早速勇二さん宅に電話すると奥さ んのテツさんが出て、「家の爺さんは耳が遠くて会話になりませんよ」という。ノーマさんは顔だけでも見たいのだというと、「それならどうぞ来て下さい」というこ とになった。    
訪れると座敷に3台もストーブをつけて待っていてくれ、部屋の中は汗ばむほどだった。迎えてくれたのは勇二さん夫婦と息子の洋一さん夫妻、それに近所に住んでいる娘のエイさんの5人だった。 いつもながら飾らない中にも客をあたたかくもてなそうとする雰囲 気に満ちている。ふと多喜二の家もこんな雰囲気だったのではない かと想像した。           
早速ノーマさんが色々質問した が、奥さんのテツさんが中心になって答えてくれた。まじめな顔をして坐っている勇二さんの脇 で、「家の爺さんはきこえないからこうしておとなしくしているが、 しゃべり出すと止まらないよ」と テツさんが言うので、私は思わず吹き出したくなった。どうしても 勇二さん本人にききたい時は、息子の洋一さんが耳の傍で大きな声できいてくれた。
  テツさんは弟妹4人の面倒を見るために小学校2年までしか行かなかったが、勇二さんの所は姉カチ、双子の兄勇一郎ともども高等小学校2年まで行った。「親がよく行かしてくれたものだと思う。 125 自分は目が悪く、黒板の白墨の字がよく見えなかった。それでも成績は学級50人中10番以内だった。 徴兵で横須賀まで行ったが、視力が悪くて戻された。父が酒飲みだったからだろうか。目が悪いとろくな仕事につけず苦労した。その後徴用で北海道の中標津で飛行場建設にあたり、終戦までそこで過ごした。トロッコで土を沢山運んだ。朝鮮人も沢山いたが、日本人とは別行動で一緒に働くことはなかった」。  
「昔は釈迦内からも何人もカムチャツカに出稼ぎに行った。前金として20円から30円もらった が、1日の賃金が男で60銭、女で35銭位の時代だった」 「従兄の多喜二とは1度も会う ことがなかったが、1度は会いたかった。多喜二の母セキや弟の三吾とは何度か会った。小樽と東京を行き来する途中、年に2回位は 釈迦内の実家(屋号「そばや」)に寄った」。
  ノーマさん「多喜二が死んだ時どう思いましたか?」
「新聞配達をしていたのでそれを見て知った。新聞は、朝5時20分大館駅発の汽車に間に合わせて取りに行った。孫をおぶって 多喜二の遣体を引き取りに行ったセキの写真が載っていた。そのあと東京から電報が来た」。
  そのうち娘のエイさんが昔の古 い写真を持ってきて見せてくれた。 杉皮葺きの屋根に石が載っている写真をエイさんが、「何だ小屋でねが」と言うと、勇二さんは「ちゃんとした立派な家だ」とがんばった。
  49歳の時、脳卒中になり、勤めていた大館木材会社をやめてしまった。そのあと農協から資金を 借りて養豚を始めた。まだあまり 他人がやってない頃で、これがう まくいったと勇二さんは顔をほころばせた。しかし洋一さんは手伝 いで大分働かされたようだ。
  洋一さんは物心がつくようになって、多喜二が当局ににらまれたことも知るようになり、多喜二のことはあまり考えないようにした。現在の心境は少し複雑ではあるが、多喜二を誇らしく思う気持ちも出てきた。「蟹工船」など読 んでみると、やはりすばらしい作品だと思う。
  勇二さんは今でも毎日外に出て、寒暖計で気温を調べ記録するという。「今日は零下12度あった」 と言っていた。テツさんも新聞を 読むのが大好きだという。几帳面で知識欲旺盛なのが、木村夫婦の若さの秘訣なのかも知れない。
  2時間はあっというまに過ぎ 去り、木村夫婦には玄関先で 別れ、息子の洋一さんが庭先の 駐車場まで見送ってくれた。 (2008年2月3日記)

おおやまけんじ:大館市小林多喜二文学碑建立の会。民主主義文学会大館支部長.。記録第2集『読本・秋田と小林多喜二』に「多喜二文学碑、生地大館市に完成」エッセイ「大館市多喜二の集い10周年を迎えて」を執筆。記録第3集『小林多喜二・生地からの発信』に「木村勇二(多喜二の従弟)さんを訪ねて」「初期の頃の思い出から」を執筆。→参考:ひと「小林多喜二の生誕地ですべての作品を読もうと燃える大山兼司さん
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